◆古文に必要な最小限の知識

 

◆公立高校の入試古文に必要な最小限の知識とは

 

中学校の国語の授業では、教科書に出ている有名な作品について学びますが、初見の文章を自力で読解する学習は原則として行いません。

 

中学校で学習しないのですから、高校入試でも初見の古文を読解する問題は出題されないはずです。

 

つまり、見たことのない古文を語学的な知識をもとにして読解するという問題は基本的に出題されないのです。

 

では、高校入試の古文とはどのような問題が出るのでしょうか。

 

 

 

 

◆高校入試の古文問題は情報処理である

 

次のグラフは2017年度の全国の公立高校の入試問題を調査した結果です。

 

 

これは古文の設問を種類別に分類したグラフです。

 

内容把握問題は全国の高校で100%出題されています。

 

いっぽう、単語の意味や文学史などの暗記が必要な問題はほとんど出題されていません。

 

 

 

 

こちらは古文の文章の形式の割合を示したグラフです。

 

「全訳」は、古文の他に全文の現代語訳がついているもの。

「注のみ」は、古文の後ろに難しい語句の説明をつけたもの。

「傍注訳」は、古文の横に現代語訳を小文字でつけたもの。

 

これを見ると全国の公立高校の入試古文の約80%が何らかの形で古文に現代語訳をつけていることがわかります。

 

 

この調査から次のことがわかります。

 

 

 

公立高校入試古文問題の傾向】

 

・歴史的仮名づかいはほとんどの公立高校入試で出題される。

 

・文法や古文単語の知識を直接問う問題はほとんどない。

 

・一部の文脈や文章全体の大意を問うものが出題の中心を占める。

 

 

 

【公立高校入試古文の文章形式の傾向】

 

・ほとんどの公立高校が注釈や傍注で古文の部分的現代語訳を提示している。

 

 

 

 

 

これらの事実を総合すると次のようなことが言えるでしょう。

 

高校入試の古文読解とは、文章中に散りばめられたヒントを探し出しそれをもとに内容を適切に推測するという情報処理能力が問われる問題である。 

 

 

 

 

◆高校入試古文に求められる学力

 

1. 仮名づかいなどの基本的な知識

 

2. 与えられた対象から必要な情報を収集する力

 

3. 集めた情報をもとに適切な判断をくだす力

 

 

 

 

 

 

 ◆高校入試古文の実際

 

2020年度の埼玉県の入試問題を例に出してみます。

 

出典は『無名草子』です。鎌倉時代の評論で、大学入試にも出題される古文です。

 

本文の冒頭を引用してみます。

 

 

 

 ───以下引用 ───

 

 

大斎院より上東門院、「つれづれ慰みぬべき物語やさぶらふ。」と尋ね参らせさせたまへりけるに、紫式部を召して、「何をか参らすべき。」とおほせられければ、「めづらしきものは何かはべるべき。新しく作りて参らせたまへかし。」と申しければ、(以下略)

 

 

  ──── 引用終わり ───

 

 

 

 

一見すると、非常に難しい印象を受けます。事実、敬語が多用され、高校生でも理解するのがなかなか難しい古文です。

 

しかし、問題文では、いろいろなところにヒントが隠されています。

 

まず、文章の後ろに語句の現代語訳と説明が注としてつけられており、本文でも一部の古文の左側に小文字で現代語訳がつけられています。

 

たとえば、「つれづれ慰みぬべき物語やさぶらふ」には、横に小文字で

 

「退屈を紛らすことができる物語がございますか」

 

というように、傍注で現代語訳がついています。

 

 

 また、問2では、問題文中で「新しく作りて参らせたまへかし」には、

 

『新しく作って差し上げなさいませ』という意味ですが」

 

というように現代語訳を載せてくれています。

 

 

さらに、問4では、「『いづれか』とありますが、ここでは何と何とのことですか。」という問題が出されます。

 

この問題じたいは、直前の本文「それゆゑ紫式部といふ名はつけたり」に注目することで、

 

「『源氏物語』を書いたことで宮中に召された女性が、紫式部と呼ばれたこと」

 

という正解の選択肢を選べます。

 

 

そして、その正解の選択肢の内容から、本文の大意が推測できるようにつくられています。

 

 

 

つまり、

 

紫式部が中宮彰子から退屈さを紛らすものを求められ、適当なものがないので、新しく源氏物語を書くことになり、それが原因でその作者に紫式部というあだ名がついた」

 

ということが大意なのです。

 

 

  

このように、注釈や現代語訳、選択肢の内容を参考にすれば、文章のおおまかな内容を推測することができるのです。

 

高校入試の古文では、古文の語学的な読解力が求められるのではなく、現代文の情報処理能力が問われているということがおわかりいただけたことと思います。

 

 

 

 

 

 

◆高校入試古文に必要な最小限の知識

 

情報処理能力を問うとはいえ、高校入試の古文読解に対応するには、次の最小限の知識が必要です。

 

読解に必要な最小限の知識とは、「否定を表すことば」です。

 

否定を見落とすと、意味を逆にとらえて内容を誤解してしまう危険があるからです。

 

 

 

 

◆古文の否定を表す言葉◆

 

「ざら・ざり・ざる・ざれ・ず・ぬ・ね・で・まじ・じ・なし」

 

【訳】「・・・ナイ」と訳す

 

※注意

・古文の助動詞「ん」は否定ではない。

・「ぬ」は完了の「…タ」と訳すものと、否定の「…ナイ」と訳すものとがある。

 

 

 

 

それぞれ微妙に訳に違いがあるのですが、細かいことはおいておき、まず否定であることをおさえましょう。そうすれば、文章の大意をとらえられるはずです。

 

 

 

これだけはぜひ覚えておきましょう。

 

 

 

 

 

◆ポイント

 

高校入試の古文読解は情報処理である。

 

最小限の知識である否定を表すことばは覚える。

 

 

 

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