2.理解の枠組みを養成する

 

1)理解の枠組み(スキーマ)とは

 

私たちが文章を読むとき、そこに提示されている話題を頭の中にある知識や経験から作られた「枠組み」に照らし合わせて理解しようとします。

 

このような知識や経験から作られた「理解の枠組み」を「スキーマ」と言います。

 

 

入試の論説文の内容がちっとも頭に入ってこないというばあい、この「スキーマ」が頭の中に十分できていない可能性があります。

 

スキーマには、語の言い回しや構文の意味といった小さなものから、文章の主題といった大きなものまでさまざまなものがあります。

 

たとえば、難しい漢語やカタカナ語、独特の言い回しなど、ふだん会話しているときには使わない言葉づかいがたくさんでてくると文章が読みづらくなりますね。

 

また、自分のまったく知らない分野の専門的な内容の文章がなかなか理解できないという経験があることでしょう。

 

これは、背景知識という「スキーマ」を持たないから起こることなのです。

 

 

以下に具体的文章を引用して説明してみましょう。次の引用文を見てください。

 

 

───── 以下引用文 ─────

 

 

人は萬物の靈にして五穀草木鳥魚獸肉盡く皆喰はざるものなし。(福沢諭吉『肉食之説』より抜粋)

 

 

 ───── 引用文終わり ─────

 

 

これは明治時代に書かれた文章で、明治文語文などと言われます。古文と漢文を足して割ったような文章で、もう現代語とは程遠い表現です。

 

 

この文章を読み取る「理解の枠組み=スキーマ」として次の知識が必要です。

 

 

①漢字の知識

 

・「萬」は「万」の、「靈」は「霊」の、「獸」は「獣」の、「盡」は「尽」の旧字体。

 

・「喰」は常用漢字にない漢字で「食」とだいたい同じ意味。

 

 

 

②「歴史的仮名づかい」の知識

 

・「喰ざる」は「クザル」と発音する。

 

 

 

③古典文法の知識

 

・「ざる」は打消しの助動詞で「・・・ナイ」という意味。

 

 

 

④漢文訓読体の知識

 

・「にして」「ざるものなし」は漢文訓読体という文体で、それぞれ「断定」「二重否定」という表現。

 

 

 

⑤言葉の意味の知識

 

・萬物(ばんぶつ)「宇宙に存在するすべてのもの」

 

・五穀(ごこく)「人間の主食となる穀物で、米・麦・粟・黍・豆のこと」

 

・盡く(ことごとく)「すべてにおよぶさま」

 

 

 

たった一文にこれだけの「理解の枠組み」が必要となります。

 

 

 

以上は、ちょっと特殊な語句や文法の知識としてのスキーマでした。次に、もっと一般的なスキーマについて見てみましょう。

 

 

 

つぎの文章を読んでください。

 

───── 以下引用文 ─────

 

 

鉄のくさりを両手で握って、行ったり来たりをくり返す。最初はゆっくりしているが、次第に速くなる。しかし、ゆっくりでも早くても、リズムはつねに一定である。立つこともできるし、座ることもできる。並んですわることもある。

 

石黒圭『「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける』光文社新書 より 

 

───── 引用文終わり ─────

 

 

問. これは何を説明した文章でしょうか。

 

 

 ↓

 

 

 

 

 

よく考えてください。

 

 

 ↓

 

 

 

 

 

わかりましたか?

 

 

 

 

   

 

 

解答は、ブランコです。

 

あの、公園などにある遊び道具のブランコです。

 

 

「ブランコ」という解答を知ってから、つぎの説明文をもう一度読んでみてください。

 

 

鉄のくさりを両手で握って、行ったり来たりをくり返す。最初はゆっくりしているが、次第に速くなる。しかし、ゆっくりでも早くても、リズムはつねに一定である。立つこともできるし、座ることもできる。並んですわることもある。

 

 

 

どうですか?書いてあることが頭の中でつながりを持ち、「ピンとくる感じ」がしたのではないでしょうか。

 

このとき、頭の中では、「ブランコ」というもののスキーマが呼び起こされて、それに文章の内容が当てはめられて、理解がなされているのです。

 

ブランコというものを一度も見たことがなく、上の文章の説明を理解するのは非常に難しいでしょう。

 

 

文章の読解には、このような理解の前提となるこの世界に存在するいろいろなものに関する「背景知識としてのスキーマ」が必要になるのです。

 

 

たとえば、地球温暖化について書かれた文章を理解するには、背景知識として、二酸化炭素の持つ温室効果や車の排気ガス中に二酸化炭素が含まれることなどについて知っていると理解が早まるでしょう。

 

しかし、そういった背景知識がなければ、まず、何が書かれているのか理解できません。

 

もし、これらのことを調べながら読むとすると、たいへんな時間と根気とが必要になります。

 

 

 

「読解力」とは、文章内容に当てはまる「スキーマ」を頭の中から呼び出し、それをもとに内容を適切に類推し理解する力のことなのです。

 

 

 

 

 

2)読解力をつけるには

 

以上のことを踏まえると、読解力をつけるには、次のふたつのことが必要になることがわかります。

 

 

1.いろいろな分野の「スキーマ」を頭の中に蓄積すること

 

2.適切な「スキーマ」を呼び出すスピードを高めること

 

 

 

 

スキーマ養成には次にあげる訓練が大切です。

 

まず、さまざまなことばの知識を増やし、語彙力をつける必要があります。

 

 

1.文章を読んでいてわからないことばが出てきたら、こまめに辞書をひくこと

 

2.意味付きの漢字問題集を読みこんで語彙力の増強に励むこと  

 

 

これらの勉強をコツコツ積み重ねましょう。

 

 

 

 

 

つぎに、文章の読解に必要な背景知識の養成です。

 

 

 

近年の入試問題では、文芸・思想・科学・社会・芸術などのさまざまな分野の評論文が出題されます。これらの分野の「背景知識=スキーマ」を身につけるには、やはり読書をすることが必要です。

 

読書というと、小説を思い浮かべることが多いと思います。しかし、入試の文章としては小説文はあまり出題されません。入試の読解力をつけるという点では、論説文や評論文を読むことが大切です。

 

 

最近では、中高生向けに評論文を集めた本も出ています。

 

しかし、やはり本物の読解力をつけるには、専門家が一般人向けに書いた「新書」を読むことをおすすめします。

 

新書とは、本のサイズのことですが、さまざまな専門分野の入門書として出版されることが多いものです。たとえば、岩波新書、中公新書、ちくま新書などがあります。

 

 

まだ時間に余裕のある学年でしたら、自分の興味のある新書をどんどん読みましょう。読解力がつくこと間違いなしです。

 

じつは、高校入試や大学入試の論説文もこの新書からとられることがよくあるのです。もしかしたら一度読んだ文章に本番の入試で出会うかもしれません。

 

 

ただ、受験学年で時間がないばあいは、読書にそんなに時間がとれないかもしれません。そんなときは、現代文の問題集の文章を以下の手順で読みこむことをおすすめします。

 

読解の問題集は、入試頻出の分野の論説文が適度な長さで収録されています。ふつうは問題を解くことに使うでしょうが、文章を読みこむ教材として使うのも読解力養成に役立つのです。

 

 

  

1.高校入試や大学入試の論説文の問題集を一冊用意する。

 

2.わからないところがない状態まで文章を調べつくす。

 

3.その文章を繰り返し何度も読みこむ。

 

 

 

さまざまな分野の文章を20題くらいこの方法で何度も読みこむと、論説文読解の「スキーマ」が頭の中に養成されるでしょう。そうなれば、初見の文章もだんだん読みやすくなってくるはずです。

 

さらに、その文章を「毎日」「高速で」読み続けてください。

 

そうすれば、頭の中の「スキーマ」を呼び出すスピードがしだいに速くなっていきます。

 

 

この訓練により、「スキーマ」の蓄積とそれを呼び出すスピードとの両方が鍛えられ、文章読解力が確実に身につくことでしょう。

 

 

ぜひ、チャレンジしてください。

 

 

 

 

 ポイント

 

・論説文の読解力をつけるには「スキーマ」を身につける必要がある。

 

調べつくした論説文を繰り返し高速で読みこむと読解力が身につく。

 

 

 

 

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